そんなエネルギッシュな街の一角に、「La Mamounia(ラ・マモーニャ)」というホテルはありました。入口にはまっ白いアラビアのロレンスのような衣装を着たドアマンが立つ、そう、ここは泣く子も黙る5つ星、各国の要人や世界的なスターたちにも愛されているホテルなのです。当時34歳だった私は、なぜかこの世界でも屈指の豪華ホテルに宿泊することになりました。ここで私は、それまで経験したことのなかった贅沢な空間とサービスに、ただただ圧倒されるばかりだったのです。
エントランスのドアを開けると、そこは「千夜一夜物語」の世界
私がひとり、ラ・マモーニャに到着したのは夕方近くのことでした。
パリから来たとはいえ、私はほこりまみれで入口に立ち止まっていました。
そして目の前にそびえたつ何やら別世界の空間に、ちょっと心細く思いながらも、エントランスに近づいていきました。すると頭にぐるぐるとターバンを巻いた大変上品なドアマン2人に出迎えられ、ロビーへと案内されました。大理石の床、イスラム建築特有の緻密なモザイク模様が施された壁、かつての植民地時代を思い起こさせるフランスのシャンデリア・・・かなりほの暗い空間でしたが、これが本物の豊かさなのかと思わされました。
まるで今までの日常の出来事が、あまりにも薄っぺらで嘘であったかのような迫力を感じたのです。
ロビーには、どこのホテルにも必ずあるはずのチェックインカウンターというものが見当たりません。
そうです、ここでは、宿泊客が到着するとホテルマネージャーがレセプションスペースにゲストを案内し、ゆったりと着座して手続きを行うのです。パスポートを提示し、2、3の質問に答えて、印字された文書を確認し、サインをするのです。
それからこのホテルの歴史や設備について簡単な説明を受けたら、ボーイに部屋へと案内される・・・といった手順なのです。
心のこもった光のルームサービスに感激
客室は天井高が4mもあろうかという、これまた豪華な部屋でした。アラビアのモザイクタイルや調度品、そして世界中のテレビ放送が見られるという大型のテレビモニターと、「この土地でこんなものが・・・」というギャップこそが豪華というものです。しばらく暮れゆくマラケシュの街を窓から眺めていると、しばらくして客室係がやってきました。ルームサービスを頼んだ覚えはないのに・・・と思いながら部屋に通すと、彼女は英語で説明をし始めるのです。どうやら、部屋に置かれているキャンドルに火を灯すためにやってきた、ということのようでした。そして彼女は、ひとつひとつの蜀台に火を灯し始めたのです。

私がラ・マモーニャに宿泊した際に描いた、客室のパース。
日本はもちろんほとんどの国では、消防の問題もあってキャンドルが設置されたホテルの客室というのを見かけることができません。ラ・マモーニャは天井が高く、部屋に燃えやすいものが少ないためにこんなサービスが可能なのでしょう。あるいはこのホテルには、上品な紳士淑女のみが泊まっているからなのでしょうか?
いずれにせよ、この光のルームサービスは、遠く日本から20時間ほどかけて到着した私にとって、思いのほか嬉しいサプライズとなったのです。
本当の豊かさとは?
キャンドルの明かりを見つめながら思ったこと
部屋中でゆらめく小さなキャンドルの炎を見ながら、私は考えました。
「本当の豊かさ、真のラグジュアリーとは何だろう」と。
はっきりとわかったのは“たくさん”と“豊かさ”は決してイコールではつながらないということです。ものごとに丁寧に対処することこそが、真の豊かさなのではないでしょうか?手間を惜しまずに処すること、何だか忘れていたことを思い出させてくれたような出来事でした。
照明の世界でもまったく同じです。ふんだんな光で目いっぱい明るくすることだけをよしとせず、スイッチひとつですべてを済ませる便利さばかりを優先しない。豊かな空間をしつらえるための光は、小さなキャンドルを丁寧に灯すことなのかもしれませんね。
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ホテルでキャンドルを灯すサービスがあるなんて素敵ですね!
“たくさん”=“豊かさ”ではないというお話、「なるほど!」と思いました。
たしかにそうですね。私もときどき、自分の部屋でアロマキャンドルなどを灯していますが、そうした空間にいるだけで、心が豊かになるような気がします。