まず、市川の菅野という場所を踏まえたうえで、どのようなコンセプトを考えられたのか教えてください。
伏木 氏
市川の菅野という場所は一般的な知名度は決して高いとはいえませんが、千葉エリアでは隣接している真間周辺を含め、邸宅街としてのイメージが定着していた土地です。まずは、その背景を考慮した住宅をつくろうと思い、建築家の藤原益男さんに、プロジェクト全体のコンセプトメイキングと総合監修をお願いしました。
その結果、藤原さんが提案してくれたのが「和テイスト」。簡単に説明すると、日本人が昔から受け継ぎ、今も変わらない落ち着いた住まいで暮らしたいという感覚を大切にしようということです。藤原さんは菅野のロケーションに日本人の原風景的なものを感じ考えられたようです。
私自身も菅野へ初めて足を踏み入れた時の直感やここで暮らす方をイメージしてみた結果などの理由から、すぐに賛同できましたね。

落ち着きを演出する室内空間の工夫が随所にプランニングされた(バットレスのコーディネイト例)
具体的に「和テイスト」はどのように反映されているのですか?
伏木 氏
「和テイスト」だからといって、畳や瓦、障子といった物にこだわるということではありません。極端な話、物自体は洋風でも和風でもいいんです。むしろ、物と素材をどう組み合わせ、植栽などとのバランスによってどう日本人の感性に訴えかけるものをつくれるかがポイントでした。
たとえば外観はモダンで洗練されたデザインですが、外壁は横にスジを入れて柄をつくる「櫛引」と呼ばれる仕上げで和テイストを出していたりします。また、こげ茶や赤錆色、いぶし銀など渋めの差し色を使ったり、周辺エリアのシンボル的な存在になっていた松の木をイメージしてグリーンを取り入れたりと、カラーでも「和」を意識しました。
植栽も都内の『ファインコート』はコニファー、つまり常緑の針葉樹などが中心でしたが、市川菅野の場合はテーマが和ということで、あえて落葉樹を使ってみました。そのためか緑が広がるというイメージよりもシャープなトーンの植栽になりました。

櫛で線を引くように不規則で遊びのある外壁(バットレス)の仕上がりが昔の土壁風の印象を与える
「物や素材の組み合わせ」という点で印象に残っている部分や
住戸のプランニングで意識されたことなどは?
伏木 氏
一番わかりやすいのは門柱でしょうか。オリジナルのデザインなんですが、旅館や料亭の灯籠風でデザインテイストもバラバラにし、配置や高さもあえて画一的にならないようにしました。これは「原風景」というテーマにつながっているのですが、いろいろなパターンの門灯があるほうが「街」らしい。いかにも「つくられた街」ではなく「自然発生的な街並み」らしさが出せたと思います。門灯を含め、他のしつらえなどもテーマが決まると自然に答えが見えてきました。これまで使用してきた素材や物と同じでも、やり方次第で、いろいろと違うテイストを演出できるのが面白かったですね。
プランニングにおいては「落ち着きのある家」という点を意識しました。「落ち着き」を感じる要素はいろいろありますが、最終的には「プライバシーのある家」だと思います。

ダイニングの窓の向こう側は、テラスという形でプライベートなもうひとつのリビングとして楽しめます
ところが、一般的なプランに従って南側に広く庭をとると、道路に面してしまうケースがあってクルマや通行人から庭が丸見えになるプランが当初はありました。いくら庭が広くてもそれではリラックスしてくつろげないでしょうし、庭に面したリビングもカーテンを閉めたまま、見て楽しむことも難しいですよね。
つまりは、せっかくのパーソナルな庭がパブリックな庭になってしまっていたわけです。
そこで、こういったプランの場合は思い切って「南向きの庭」という概念をやめてみたんです。
「南の庭」の変わりに、何か別のプランやゾーニングを考えられたということですか?
伏木 氏
そうですね。南向きの庭をやめるといっても、ゼロにしてしまうわけではありません。たとえばバーベキューをしたり、ガーデン用のテーブルやチェアなどを置いて寛ぐといった広さが必要な用途を軸に庭を考える思想を捨てたということです。
その変わり、外からは見えない建物の中側に庭をつくりました。中庭の三方を囲めるように建物の形を変え、外部からの視線に配慮したバットレス(※)を設けるなどして完全なプライベートガーデンになるようにプランニングを修正しました。
さらにテラスにタイルを敷くことで、庭に面するリビングの床と高さを近づけて、一体感が出るようにしてあります。そのため意識のうえでは中の空間と外の空間が一体となった広いプライベートスペースを感じていただけたのではないでしょうか。まさに夜でもカーテンレスで楽しめる、ご家族だけで寛げる空間ができたと思います。
※バットレス:玄関ポーチまわりや、玄関と隣戸の境などに設けられ、家の外に張り出した梁に柱を継ぎ足したり、壁などをつくって支えた空間をもつ設計手法。外の視線を遮り、外観を 整える効果がある。

上の図面下側部分が庭にあたる。広さは確保できるが通りに面し寛ぎにくい。右図ではA部分がバットレスで囲まれた中庭。B部分は視線をさえぎり通りから見ても美しい景観として映る植栽中心のスペースに。
「ファインコート市川菅野」は住戸内のプライベートスペースに
強くこだわっている点が独特だと感じましたが。
伏木 氏
「人が住む家は、やはり内側から発想しなければいけない」という藤原さんの言葉が印象に残ってます。いくら外観がカッコよくても。やはり快適な住まいでなければ意味がない。それに、結局、快適な住まいを追求することは外観のデザインにもつながると思うのです。もちろん、これまでの『ファインコート』も住戸内にこだわってきています。ただ、市川菅野の場合は「街から家」つまり「外から中」ではなく、「中から外」へとアプローチの方法を変えることに試みたということですね。
「ファインコート市川菅野」を手がけられて、何か意識が変わった点はありますか?
伏木 氏
家づくりは箱をつくることではない。そこで暮らしている人たちが、どうしたら快適に暮らせるかを考え、どう住むか生活提案をすることが第一であり、自分たちの使命だという意識が強くなったと思います。
「住むとは何か?」と常に考えるようになりましたね。どうしても作り手って建物だったり設備だったり「物」そのものに関心が向いてしまいがちですが、そこに寄りすぎてはいけない。住まいはついついスペックや設備だけで選んでしまいがちですが、それは買えば加えられるものも多いはずです。
我々がお客様に提供すべきことは住まい方や空間の提案だと思っています。不遜な言い方になるかもしれませんが、「物」ではなく、そういった点に共感を持っていただいた方に購入してもらうのだという気持ちが大切だと思っています。

自然光やガーデニングを楽しめるテラスが、プライバシーを保たれた住戸の中側と一体化
将来的には、住まい手の方だけではなく、周辺の住民の方にも地名を言われれば風景が浮かぶような街になってほしい。たまたま「ファインコート市川菅野」を通る人たちに「ここはちょっと雰囲気がいいな」と感じさせることができる街並みやコミュニティが出来上がっていたらうれしいですね―――。
『ファインコート』ひとつひとつに、いつも創り手の想いが込められている。そう感じていただけるのではないでしょうか。
ためになった! でも庭がない家ってどうなの?
投稿者: ハイジ (2006年4月14日)